池内敏『竹島問題とは何か』引用

竹島問題とは何か

実のところ、これまでの竹島論争は、大げさにいえばあらゆる局面にそうした恣意性を強く孕んだ水準で推移してきた。つまりこの論争には学問的成果が反映されない局面が少なくなく、その具体例は本書中でも示されることとなると思う。おそらくは、竹島論争の問題点は、竹島領有権をめぐる意見対立が存在するところにあるのではなく、それら意見対立が学問的裏づけを欠如させたまま争点化されているところにこそある。学問的裏づけへの配慮を欠いているから、学問的には成り立たないことが明白な主張が再三再四蒸し返されて強弁され、堂々めぐりの議論が延々と続くことになる。

こうして日本でも韓国でも、史実から目をそらし、内輪受けはするが外へ出したらまるで通用しない水準の議論が繰り返されてきた。傍目には奇妙に映る論証も、同じ主張で固まった身内のあいだでは拍手喝采を浴びるから、さらに威勢のよい発言がなされ、その一方で、異論に対しては激烈で頑なな批判が繰り返されてきた。これでは「良い知恵」など得られようはずもない。こうした負の連鎖を断ち切って、この問題に解決の途を得るために、本書では、客観的な検証に耐えうる水準を意識しながら、竹島論争にかかわる史実を提示するよう心がけた。(7頁)

和解に至る知恵を創出するために、まずは自らに不都合な史実ともきちんと向き合う。目を背けない。相手側の主張にも耳を傾けるとともに、批判すべき点は、難詰するのではなく史実にもとづいて厳正に糺す。そうして、第三者の視線にも耐えうる意味ある相互批判を試みる。その上に立って、次の一歩をどのように踏み出してゆくか。選択される次の一歩が和解に至る一歩となるために、微力ながら本書を編んだ。(10頁)