「本当にやりたいことを見つけるのは難しい」

愛という名の支配 (新潮文庫)

田嶋陽子『愛という名の支配』新潮文庫、2019年より。

 

「ほんとうに自分のしたいことを見つけるのはとてもむずかしい。私にも、そのときどきの出会いによって進む方向が決まった、また、思いきってひとつひとつ自分のイヤなものを捨てていったらこうなった、という部分もあります。いま、ほんとうに自分のしたいことが決まっている人は、とてもラッキーな人です。人間は抑圧されると、優等生にはなれても、自分がほんとうにしたいことは見つけにくくなるものです」(pp.198-199)

 

「抑圧されていると、自分が腹の底でなにを感じているのかわからなくなってしまいます。自分の気持ちがつかめません。自分というものが大きな濡れ毛布で包まれてしまったみたいで、外界が感じられなくなります。自分自身の感性でほんとうになにかを感じてしまったら、その人は行動せざるをえなくなります。行動したら、これまでの枠をはみでることになるかもしれません。「感じる」って、そういうことなんですね。だからこそ、おおかたの人たちは、もう感じることを放棄しているのです。なぜなら、この大きな社会が決めたところからはずれることは、やっぱりすごく恐ろしいことだからです。こうして、ほんとうに感じることを抑圧していく」(p.200)