感情をコントロールできないドライバーは運転に向かない

交通心理学入門

石田敏郎・松浦常夫編著『交通心理学入門』企業開発センター交通問題研究室、2017年より。

 

 運転中には感情的な事態におかれることが頻繁にある。ネガティブな感情、とくに攻撃的な感情は、運転行動に直結し、交通環境に不適応となることが多いと考えられるので注意が必要である。たとえば、ドライバーのコミュニケーション手段であるクラクションは容易に気持ちが反映される。抗議の意味があれば長くなるし、また長く鳴らされると攻撃行動と受け取りやすい。相手や自分が特定されない状況では、日常場面よりも些細なことで怒りを強く感じることが多くなるであろう。

 ドライバーの攻撃性には個人差がみられ、攻撃性を感じやすいものは事故や違反が多いと考えられる。(p.113)

 

まず、運転場面における感情と事故・違反経験との関連を検討したところ、「運転中、マナーの悪い車には、車内で怒りの言葉をつぶやくことがある」、「マナーの悪い運転をする事は恥ずかしい」、「いくら急いでいても、荒っぽい運転をすると申し訳ないと思う」などの項目の評定平均値が、事故の経験が多いと高い。また、違反経験については、事故経験よりも顕著に運転中の感情と関係している。(pp.113-114) 

 

運転中の感情に関する分析では、「ウィンカーを出さずに割り込んできた車には腹が立つ」、「運転中、マナーの悪い車には、怒りを感じる」、「渋滞していると、いそがなくてはとあせる」、「遅い車の後ろにつくと気持ちがあせる」ドライバーは、違反の経験が多いことがここでも確認された。次いで、運転中の感情因子である怒りやあせりの感情を感じるほど、違反が多いことが明らかになった。(p.114)

 

次に、運転中の感情コントロールに関して分析を行った。「いらいらを発散するためにスピードを出すなどして気分をはらす」ドライバーは、事故や違反経験の多い運転者が高い。また、「窓を開けるなど、新鮮な気持ちになるようにする」ドライバーは、事故、違反経験が少ない。(中略)そして、事故や違反が多いドライバーほど、いらいらを直接発散し、気分転換をしていないことが明らかになった。(p.114)

 

青年は、危険であることを知りながらもその行動を行う傾向がある。リスクを求める傾向が高い人は、危険が伴っても刺激が得られる行動に挑戦するが、その傾向が低い人は堅実に安全な行動を求める。たとえば、車を運転する場合、速度の高い運転は危険を好む行動といえる。危険を避けたい気持ちが強く、安全でゆったりとしていることを好めば、事故にあう可能性は低くなる。若者は成人や高齢者よりも刺激的な場面を好むので危険傾向が高いといえよう。(p.115)

 

運転のような危険が伴う場面では、感情のコントロールが上手になされることが大切である。米国においてゴールマン(Goleman, D.)が、社会で成功した人は感情のコントロールが上手であるということを指摘して話題になった。これは、EQ(Emotional Quotient)、すなわち感情(情動)性知能と言われる。この語は、IQ(Intelligent Quotient)、すなわち知能指数と対にして捉えることができる。この論文の著者であるガードナーは、優秀な学業成績で大学に入学したにもかかわらず、社会的に成功しない学生を取り上げ、従来のIQだけを重視する立場を否定している。(p.116)

 

EQは、学術的にはサロヴェイとメイヤー(Salovey, P. & Mayer, J.D.)により提案された、感情をうまく利用し、制御して、柔軟で創造的に思考することにより、対人関係を円滑にする能力である。つまり、

 ①自分自身の感情を理解すること

 ②他者の感情を理解すること

 ③自分の感情を制御すること

 ④他者の感情をうまく受け止め、対処すること

 ⑤自分自身を目標達成に向け動機づけること

などがEQの必要条件であると言える。交通社会でも安全な運転をするためにEQの高さが必要とされるのではなかろうか。(p.116)