今や「あなたは間違っている」=「あなたは馬鹿だ」になってしまった

 

専門知は、もういらないのか

トム・ニコルズ『専門知は、もういらないのか』(高里ひろ訳)みすず書房、2019年より。

 

著者は反知性主義の伝統が根強いアメリカのことを話しているのだが、これは日本も含め現在世界の至る所で起こっていることだろう。

 

評論家やアナリストがやんわりと「情報不足な有権者」と呼ぶ人々による騒々しい口論は、そこらじゅうで起きている。しかし議題が科学であれ政策であれ、そうした口論にはひとつ気懸かりな共通点が存在する。それは、どの意見も真実として扱われるべきだとする、批判を受けつけない独りよがりな態度だ。アメリカ人は今や、「あなたは間違っている」という言葉と「あなたは馬鹿だ」という言葉の区別がつかなくなっている。異を唱えることは無礼、相手の間違いを正すことは侮辱ということだ。あらゆる意見は、それがどれほどとっぴだったり馬鹿馬鹿しかったりしても、すべて検討に値すると認めないのは狭量だということになる。(pp.36-37)