シグリッド・H・塩谷『アメリカの子供はどう英語を覚えるか』書評

アメリカの子供はどう英語を覚えるか

アメリカの子供はどう英語を覚えるか

英語を学ぶとき、アメリカの子供が英語を学ぶ方法を参考にするのがよいという話は今まで何度か聞いたことがあるが、実際にそれがどう学ぶことを意味するのかをほとんどの人は知らないし、日本に住んでいれば身近にアメリカの子供がいるわけでもないので、実際に自分で確かめることもできない。その意味で、著者が自身の子育ての経験から「アメリカの子供はどう英語を覚えるか」をまとめた本書はとても参考になり、かつ面白い内容になっている。


本書全体を通して言えることは、アメリカの子供たちは、外国人が英語を学ぶのとは違って、体で英語を覚えるということである。つまり、自分が見たり聞いたり感じたりした全ての経験を伴いながら、英語をまさに「体得」している。これはどのような言語であっても、同じことが言えるだろう。だから、外国語として英語を学ぶ人にとっては、「間違いを恐れないこと」「積極的に英語を母語とする人たちの輪に入っていって、彼らと英語によって経験を共有すること」が重要なのだと言えるかも知れない。実際にアメリカの幼児たちはそうやって少しずつ英語を自分のものにしていく。


外国語を学ぶ際に母語が邪魔をしてしまうことがよくあり、その点は「母語として英語を学ぶアメリカの子供たち」と「外国語として英語を学ぶ大人たち」の大きな違いの一つだろう。例えば本書では、「夢を見る」という表現を英語にする際、日本人は「I saw a dream last night.」とやりがちである。正確には、「I had a dream last night.」である。母語が外国語習得に「介入」してしまうことの例だろう。


それからもう一つの大きな違いは、外国語として英語を学ぶ際、文法的に文を分解したり、単語も名詞・動詞・形容詞・前置詞・冠詞などのように分けて覚えたりするが、アメリカの子供たちは「かたまり」(89頁)で覚える。「put」にはこういう意味があって「away」にはこういう意味があるから、「put away」で「片づける」という意味になるんだという風には覚えない。語をひとまとまりで覚えてしまう。しかも経験とともに覚えるので、同じような場面に出会った時に自然にそのフレーズが口をついて出てくるようになる。


個人的には本書で出てくるアメリカの早口言葉(tongue twister)が面白かった。

Santa saves soft snow.(サンタはやわらかい雪を集めている)
People pick pink peas.(みんなはピンクの豆をつんでる)
Eight apes ate eight apples.(8匹の猿が8つのリンゴを食べちゃった)
Big black bugs bleed blood.(大きな黒い虫たちが血を流している)
Little Larry loved his leaping lizards.(小さなラリーは彼のビックリトカゲが大好き)
Fred’s friend found five funny frogs from France.(フレッドの友だちは5匹のおかしなフランス蛙を見つけた)
Peter Piper picked a peck of pickled peppers.(ピーター・パイパーは1ペックの酢漬けのペッパーを選んだ)
She sells seashells down by the seashore.(彼女は海辺で貝殻を売っている)
(243〜244頁より)

こうやってアメリカの子供たちは、「学ぶ」のではなく「楽しむ」ことを通して英語を習得している。大の大人が全く同じようにやることは不可能であるにせよ、そこから外国語としての英語を学ぶ際の教訓がきっと引き出せるはずだと思う。