現代にも通じる反知性主義(『大衆の反逆』から)

大衆の反逆 (角川文庫)

オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』角川文庫、1967年より。

 

今日の著述家は、自分が長年にわたって研究してきたテーマについて論文を書こうとしてペンを執る時には、そうした問題に一度も関心を持ったことのない凡庸な読者がもしその論文を読むとすれば、それは論文から何かを学ぼうという目的からではなく、実はまったくその逆に、自分が持っている平俗な知識と一致しない場合にその論文を断罪せんがために読んだのだということを銘記すべきである。大衆を構成している個々人が、自分が特殊の才能を持っていると信じ込んだとしても、それは単なる個人的な錯覚の一例にしかすぎないのであって、社会的秩序の攪乱を意味するものではない。今日の特徴は、凡俗な人間が、おのれが凡俗であることを知りながら、凡俗であることの権利を敢然と主張し、いたるところでそれを貫徹しようとするところにあるのである。(p.14)

   ※原文では下線部は傍点。

 

大衆はいまや、いっさいの非凡なるもの、傑出せるもの、個性的なるもの、特殊な才能を持った選ばれたものを席巻しつつある。すべての人と同じでない者、すべての人と同じ考え方をしない者は締め出される危険にさらされているのである。ところが、この「すべての人」が真に「すべての人」でないことは明らかである。かつては「すべての人」といった場合、大衆と大衆から分離した少数者からなる複合的統一体を指すのが普通であった。しかし今日では、すべての人とは、ただ大衆を意味するにすぎないのである。(p.15)