サイボーグが実現すれば「自然な」人間と「増強・拡張された」人間の分裂が進む?

ロボット兵士の戦争

P・W・シンガー『ロボット兵士の戦争』(小林由香里訳)NHK出版、2010年より。

 

今後数十年間に、「自然な」人間と「増強」もしくは「拡張」された人間とに分裂が進むだろうと、科学者たちは考えている。軍の人間が真っ先にそうした増強された力を獲得することになりそうだという事実は、民間人と軍の関係をいっそう複雑にする。(p.550)

 

ケビン・ウォーリックは英国の大学の研究者で、体内に技術的に装置を埋め込んで、世界で初めて自分の体とコンピュータを直接接続した。単純に、自作のロボットとのインターフェースのレベルを向上させるためだった。ところが、ウォーリックによれば、身体能力の向上だけでなく、心理的にも変化があったという。「装置を埋め込んだことへの反応のひとつは、自分のコンピュータに親近感を覚えたことだ。それが永続的な状態になると、もう純粋な人間ではなく、サイボーグだ。価値観も倫理観も変わると思うし、拡張されていない人間に対する見かたも違ってくるだろう」(p.551)

 

ウォーリックは人間と牛の関係を引き合いに出す。人間は同じ哺乳類である牛と多くの共通点があり、生活の糧にし、普通は、この気が良さそうで穏やかな生き物に好感をもってさえいる。それでも、牛は人間より知能も能力も低いため、牛を扱うときは同じ法律や倫理に縛られないと考えている。ほとんどの人はハンバーガーが大好きで、奴隷同然の状態の牛から絞った牛乳を平気で飲む。熱心な動物保護活動家は、肉を食べるのはまちがっていると主張し、なかには牛乳も飲まない人もいるだろうが、牛にも大統領選の投票権を与えるべきだと言う人はいない。自然な人間も技術的に増強された人間から、同じような見かたをされるはずだと、ウォーリックは考えている。(p.551)