孤独について(三木清『人生論ノート』)

 

人生論ノート

人生論ノート

 

 三木清『人生論ノート』新潮文庫、1954年(1992年・第86刷)より

 

物が真に表現的なものとして我々に迫るのは孤独においてである。そして我々が孤独を超えることができるのはその呼び掛けに応える自己の表現活動においてのほかない。アウグスティヌスは、植物は人間から見られることを求めており、見られることがそれにとって救済であるといったが、表現することは物を救うことであり、物を救うことによって自己を救うことである。かようにして、孤独は最も深い愛に根差している。そこに孤独の実在性がある。(p.67)