アナクロニスト(時代錯誤者)としての自負(西部邁)

人生読本

西部邁『人生読本』ダイヤモンド社、2004年より。

 

僕の人生論は、多分どころか疑いもなく、ドン・キホーテの言動と受け取られるのがせいぜいのところでしょう。学術、評論そして雑記にわたって、おそらく八十冊を上回る書物を僕は出しております。しかし、それらのほとんどすべてが、無視されるのではないとしたら、状況のなかで場違いのものと扱われてきました。で、いつのまにか僕は、自分をアナクロニスト(時代錯誤者)と認定するのみならず、アナクロニストであることに自負を抱くようになったのです。(pp.282-283)

 

僕のいいたいのは、もっと一般的なことなのです。つまり、自分の言い分が通らなかったくらいのことで歎くなかれ、といいたいのです。広い世界のことや長い歴史のことを思えば、自分なんかは無視されて当然と構えていたらどうでしょう。そしてもし、あなたの意見を聞きたいという人が現れたら、韜晦(とうかい)せずに思うところを喋り書き、それがその人の役に立ったら、素直に喜べばよいのです。(pp.283-284)