「人生全体を何かの準備のために費やして、一体いつ人生を味わい楽しむのか」(戸田山和久)

教養の書

戸田山和久『教養の書』筑摩書房、2020年より。

 

 こんな調査結果もある。アメリカのロチェスター大学の卒業生を対象にした調査だ。卒業前に学生をサンプリングし、人生の目標について尋ねる。金持ちになりたい、有名になりたいなど外発的抱負を語ったグループと、ほかの人の人生の向上に手を貸したい、自分も学び成長したいという内発的抱負を語ったグループに分けて、その後ずっと追跡調査を行った。(pp.366-367)

 

 その結果、内発的抱負をもっていた学生は卒業後、より大きな満足感と主観的幸福感を抱き、不安や落ち込みがきわめて低いことがわかった。これに対し、外発的抱負をもっていた学生も、富を蓄積したり賞賛をえてはいるのだが、満足感や自尊心、ポジティブな感情のレベルが高まっているわけではなかった。つまり、目標を達成したのに幸せになっていなかったのである(Christopher P. Niemiec, Richard Ml Ryan, Edward L. Deci, "The path taken: consequences of attaining intrinsic and extrinsic aspirations," Journal of Research in Personality 43 (2009): pp.292-306.)(p.367)

 

 自分の生活を、さらには自分の人生を、何か生活の外にある価値あるものを手に入れるための手段にする人は、生活と人生を楽しめないということだ。そりゃそうだよね。高校生活を大学合格という目標のために送り、大学生活を就職のために送り(就活)、職業生活を配偶者を見つけるために送り(婚活)、結婚生活を子づくりのために送り(妊活)、で、人生全体をうまく死ぬための準備に費やす(終活)。ずっと何かの準備のために自分の人生を空費して、いつキミは自分の人生を味わい楽しむのか、って話だ。(p.367)