Robert Mandel, Armies Without States書評

sunchan20042005-08-14

Armies Without States: The Privatization of Security

Armies Without States: The Privatization of Security

シンガーの『戦争請負会社』に次ぐ、「軍事(安全保障)の民営化(privatized security)」についての本。この本の内容がシンガーの本の内容とかなりの部分において重なっていることにまずは驚いた。しかしながら、シンガーのCorporate Warriorsが2003年に出たのに対し、マンデルによる本書は2002年に出版されている。こちらの方が先である。言うまでもなく、1冊の本になるまでに学術雑誌等においてこのテーマに関する多くの議論がなされているはずだが、それらをフォローできているわけではないので、どちらがこのテーマについて先に論文を出したのかはわからない。しかし、1年も前に同じテーマについて書かれた本が世に出ているのに、シンガーの本のほうがより注目を浴びているのには何か理由があるのだろうか。このテーマとは関係のない瑣末なことかも知れないが、その点が気になった。

さて、本書では、シンガーの本と比較してみると、「軍事の民営化」に対してより好意的、と言って言いすぎであれば、「止むを得ない」との見方が示されていると言ってよい。本書の中で、たびたび「制御不可能な暴力に対する唯一の有効な選択肢」であると言われている。それがもたらす問題点については、シンガーの本のほうがはるかに緻密で強力な議論を展開している。民営軍事会社の分類もシンガーのほうがすっきりしていてわかりやすい。また、民営軍事会社が「しばしば現地の政治に無関心で、国内の勢力と謀って政府を転覆させる可能性は低い」(60頁)と述べているのは事実と異なっているように思われる。最終章で提唱されている民営軍事業に対する規制策も、まだ具体性に欠けるように思われた。しかしながら、シンガーの本でも言及されていた、民主主義制度の迂回(43頁)、軍事力の均衡(またはその予測)の不安定化(46〜47頁、82頁)、民営軍事会社の需要と供給がもたらす悪循環(68頁)、富者と貧者の対立の拡大(77頁)、法的規制の欠如(82頁)、公式の外交政策に及ぼす影響(86〜87頁)、国家の社会に対する統制の喪失(128頁)(「国家機能の空洞化」[a “hollowing out of the State”]36頁)、道徳的問題(130〜132頁)などの問題点についてはきちんと言及されている。

他方で、民営軍事産業がもたらす利点についても書かれている。国連の人道支援PKOは、実質的に民営軍事会社の利用なくしては到底やっていけないこと(17頁、20頁)、弱者に力を与え、民主主義の確立を手助けできる場合も多々あること(45〜46頁)、ヴェトナム戦争以来の大国の「介入疲れ」(intervention fatigue、58頁)の穴を埋めるのは民営軍事会社しかないこと、実際には民営軍事会社と現地軍・警察との間に協力関係ができていること(86頁)などが論じられている。

とりわけ、シンガーの分類でいう「軍事支援企業」、すなわち実際に戦闘に参加し、依頼主の敵と交戦する民営軍事会社の活動については、依頼主の生命や財産に差し迫った脅威が存在している場合がほとんどである。利用できるものは何であろうと利用せざるを得ない追い詰められた依頼主にとって、民営軍事会社がもたらす長期的な弊害の指摘にはいちいち耳を傾けていられないのが実情だろう。そうした依頼主の国に対して一時的な安定をもたらし、曲がりなりにも民主主義の成熟に貢献した活動の事例も多くある。だからこそ、以下のような可能性も議論されるのだろう。

多くのアナリストが主張するように、もし民営軍事会社が活動を許されていたなら、1994年のルワンダにおける虐殺で死んだ80万人もの無辜の人々を救うことができただろうということである。同様に、もしこの傭兵たちがバルカン半島で安全地帯を護衛していたなら、スレブレニツァの虐殺は決して起こり得なかっただろうと言う者もいる。(131〜132頁)

「軍事の民営化」がもつ可能性と弊害の両方を客観的に認識することの重要性が本書からも読み取れる。民営軍事会社は諸刃の剣なのである。それがもたらす影響は複雑で「多方向的」(multidirectional、50頁)であり、一概に善悪の基準で峻別することはできない。

安全保障の民営化は、全世界的な協力と調和を促進し得ると同時に、全世界的な分裂と部族対立をももたらし得る。準国家組織および超国家組織と大衆の影響力を高めると同時に、これらの集団の意思を抑圧することもできる。全地球的および地域的なパワー・バランスをうまく機能させることができると同時に、そうしたバランスを完全に破壊することもできる。(48頁、50頁)