激情と憎悪煽るメディア

ジェラシーが支配する国

「マスメディアにひろわれるのは、「わかりやすい」声です。(中略)自分の妻と子どもを殺された本村洋さんの「犯人を死刑に!」という訴えは、大きくメディアによって取りあげられました。しかし、すべての犯罪被害者とその家族が加害者への厳罰を望んでいるわけではありません。原田正治さんのように、自分の弟を殺した犯人を処刑しないよう、時の法務大臣に直訴した被害者家族も現に存在しています。原田さんは、死によってではなく、自分の所業を深く悔い、本当の意味で更生をとげることで罪を償ってほしいと強く念じていたのです。」(151頁)

 

「「自分の愛する者を殺した犯人を死刑に」。これはとても「わかりやすい」主張です。他方、自分の弟を殺した犯人の死刑を回避するよう、法務大臣に直訴までするという、原田さんの「自然の報復感情」をはるかに超えた言動を理解するためには、相当の知的な努力が求められます。この「わかりやすさ」という基準によって、本村さんの主張はメディアに取り上げられ、原田さんの主張は排除されたといえるでしょう。」(151頁)

 

「「犯人を死刑に!」と叫ぶ被害者遺族の姿は「絵」になります。そして加害者を糾弾する声には、凶悪犯への怒りをかきたてる力があります。他方、加害者に対する寛大な処置を求める言動は、人びとの感情を高揚させるものでも、「絵」になるものでもありません。激情と憎悪を「鎮める」タイプの言動より、「煽る」タイプのそれの方が、はるかにメディア(テレビ)受けがするのです。」(152頁)

 

「一連の犯罪被害者報道においてマスメディアは、犯罪被害者個々の苦しみや悲しみに寄り添う報道を行ってきたとは到底いえません。マスメディアの煽情的な報道は、受け手のなかに犯罪加害者への憎悪をかきたてて、厳罰化と死刑存置の方向に世論を誘導していったのです。」(152頁)