「芸術至上主義も知と権力の関係から自由ではあり得ない」

〈文化〉を捉え直す――カルチュラル・セキュリティの発想 (岩波新書)

「文化の政策的価値を「不純」なものとして退ける芸術至上主義的な解釈を私自身は何ら否定しないが、それだけが文化のあるべき姿だとも思わない。さらに言えば、文化の政治性に対する批判的・懐疑的な視点はすこぶる大切だが、同様に、文化の真性性や純粋性を前提とする芸術至上主義的な発想や言説そのものの背後にある政治性にも留意が必要だと思っている。芸術至上主義が重んじる審美的価値や実存的価値、さらには資料的価値をめぐる基準や判断も、よりメタな次元では知(ないし生)と権力の関係から自由ではあり得ないからだ」(pp.122-123)

 

国威発揚の目的のために文化が利用(ないし抑圧)された戦時を想起すれば、文化と国家権力の関係には敏感にならざるを得ないが、かといって、今日、ナショナルなレベルの施策を教条主義的に禁忌(ないし抑圧)するのもまた歪であろう」(p.123)