ルワンダ大虐殺で「武器としてのレイプ」を生き延びた人たち

ルワンダの祈り―内戦を生きのびた家族の物語

後藤健二ルワンダの祈り:内戦を生きのびた家族の物語』汐文社、2008年より

「虐殺の時、女性に暴行することが武器のひとつとして使われたんです。」

「武器?」

「はい。男たちはフツ族民兵の中に、女性をねらって暴行するグループを組織したのです。そこにはエイズウィルスに感染した者が大勢含まれていました。彼らの目的は、女性たちに感染を広げることでした。ただ殺すだけではなく、ゆっくりと時間をかけて感染を拡げて、ツチ族の血を永遠に絶やそうとしたのです。」

 銃や刃物と同じように武器としてレイプを用いたという話は、これまで聞いたことがありませんでした。わたしは言葉を失いました。(p.28)

 

 「ここの患者は、みんなとても深刻な状況にあります。彼女たちは、虐殺事件の時に暴行されて、エイズウィルスに感染させられてしまったのです。一番憎むべき相手からうつされてしまったのです。だから、彼女たちは精神的にもいつも不安定な状態にあります。」

 中には、気が狂いそうになると訴える女性たちもいるといいます。(p.29)

 

「ジェノサイドが始まった日のことを覚えていますか?」

「はい、四月の十四日のことでした。午後三時くらいだったと思います。フツ族民兵たちがとつぜん家を襲ってきたのです。家にいた両親と兄弟姉妹はその場で殺されました。あっという間のことでした。

 わたしは、男たちに暴行されました。その後、体中を切られました。彼らは、わたしも含めて全員死んだと思ったようで、なにか言い合いながら、家を出て行きました。本当に嵐のような出来事でした。

 次の日、わたしは目を覚ましました。自分は死んでいないと気がついたのです。

 助けを求めて家を出て歩きまわっていました。前日にわたしたちを襲った民兵がわたしを見つけました。そして、『まだ生きていたのか、それなら歩けないようにしてやる』と言って、また足を切られました。今度は足の裏です。」

 マリアンさんは履いていたサンダルをぬいで足の裏を見せてくれました。直線の傷が無数にありました。(p.35)

 

 それまで、仲良く暮らしていた近所の人たちがとつぜん変わって、自分や家族を襲いかかってくるようすは、いくら言葉できいたり、文章で読んだりしてもなかなか想像できるものではありません。でも、ロザリーさんやマリアンさんが無数に持つ体の傷跡を見ると、こちらも心臓の鼓動がはげしくなり、体中の関節が痛くなります。(p.36)

 

「これから、やりたいと思っていることは何ですか?」

「何か商売をしたいです。それに、ジェノサイドのせいでわたしは途中までしか学校に通えていないので、勉強したいとは思いますが……。太陽の陽射しを長い時間あびていたり、火を見たりすると頭が痛くなってしまうんです。ですから、あまり無理はしないようにしています。

 今は、生きているだけで幸せです。」(p.37)