安全保障研究領域における女性の不在

国際関係論とジェンダー 安全保障へのフェミニズムの見方

J. アン・ティックナー『国際関係論とジェンダー:安全保障のフェミニズムの見方』(進藤久美子・進藤榮一訳)岩波書店、2005年より。

※下線・強調は引用者。

 

「一九六〇年代初頭に、エール大学国際関係プログラムの三人の女子大学院生の中のひとりになった時、私は、国際関係が女性不在の中で形づくられているために、この学問がかならずしも多くの女性を引き付けるものではないという事実に気がついた。なるほど一九七〇年代には、大学院に入って国際関係を専攻する女性の数は着実に増加していて、私の孤立感は多少解消した。しかしこの分野の女性の教員や研究者たちは、もっぱら国際政治経済学や開発学、国際関係理論の分野に集中していた。なぜこの学問分野の最も核となる国家安全保障や国際安全保障の領域に、女性がほとんどいないのだろうか(p.v-vi)

 

「一九八〇年代初頭、マサチューセッツ工科大学核戦略コースに約六〇名の学生が参加していたが、そのうち女性は、私を含めて三名しかいなかった。この事実は、国際関係論の安全保障分野に女性研究者がきわめて少ないという思いを、いっそう強めるものであった。核戦略の難解で不可解な言語に親しもうと努力しながら、歴史専攻の学部生時代、いかに戦争の戦略や武器開発に関する詳細な知識を避けてきたか、なかば同情の念をもって思い出すことがある」(p.vi)

 

「実際そうした問題を私自身教え始め、これまで異質に感じていたそれらの言語を教育現場で現実に使ってみて、次のことに気がついた。国際関係概論クラスの男子学生が、戦争や武器に関する言語にとてもなじんでいるように見受けられるのに対し、女子学生は、どの学期でもつねに不安感を、つまりクラスで扱う問題が「自分たちの問題」のように思われないので、無事単位を取ることができるのかといった不安感を、個人的に打ち明けていたのである。そうした女子学生を励ましながら、ふと、これは「私の問題」でもあるのではと自問することがあった(pp.vi-vii)