他者への共感能力の欠如とソーシャル・メディア
久木田水生・神崎宣次・佐々木拓『ロボットからの倫理学入門』名古屋大学出版会、2017年より。
シェリー・タークルは、情報技術の発展が人と人との直接的なつながりを減じさせていることを危惧しています。情報技術は私たちが世界中の多くの人々とつながることをますます容易にしている一方で、そのことによって私たちは目の前にいる人間への配慮を失っている、とタークルは主張します。タークルは彼女自身が長年にわたって行ってきた豊富なインタビューや、心理学や社会学における近年の研究に基づいて、情報技術の発達がいかに人のコミュニケーションのあり方、人間関係のあり方、あるいは人間の生き方を変化させているかを論じています。一言でいえば、スマートフォンなどの情報機器を手にした人びとは自分自身や目の前の人間と直接的に向き合い、重要な問題について時間をかけて考えたり論じたりすることを避け、機械の向こうの人びと、あるいは機械そのものへと逃避するようになっている、というのがタークルの主張です。(pp.114-115)
タークルは直接的な対話を避けることが、他者への共感能力の欠如を招くことを危惧しています。ミシガン大学で行われたある調査では、今日の大学生が20~30年前に比べて他者への共感を顕著に欠いているということが示されています。この調査に携わったある研究者は、その理由についてはさらなる調査を待たなければならないとしながら、ソーシャル・メディアのお手軽な友人関係が一因を担っている可能性を示唆しています。(p.117)