怒りから快感を得ている人からは「逃げるが勝ち」

キレる!: 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」 (小学館新書)

中野信子『キレる!:脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』小学館新書、2019年より。

 ※下線は引用者

 前頭前野の機能低下によって、怒りの感情を抑制できず、衝動的な行動に出てしまうことは前述しました。

 しかし実は、理性的な行動を促す前頭前野の機能が強すぎる場合も、相手を過剰に攻撃する言動につながることがあります。最も恐ろしいのは「自分には怒る正当な理由がある」と判断した場合です。なぜなら怒りがどんどん加速してしまうからです。(pp.56-57)

 

 実は、こうしたキレ方のほうがより激しく、恐ろしいのです。なぜなら、自分が正しいことをしているという正義感による制裁行動は、さらにもう一つの脳内物質が関係するため、より過激になり、止めることが困難になるからです。(p.57)

 

 正義感から制裁行動が発動するとき、脳内にはドーパミンが放出され、快感を覚えることがわかっています。

 ドーパミンは、ノルアドレナリン同様に興奮性の神経伝達物質です。ドーパミンは“快楽物質”とも呼ばれ、脳内に快感をもたらします。快楽からその行動がやめられなくなり、麻薬やアルコールなどの依存症などを引き起こしてしまうことがあります。

 ドーパミン前頭前野を興奮させ、意欲的にさせる物質でもあり、大量に分泌されると興奮状態になり、過剰な攻撃をしてしまうことがあります。(pp.57-58)

 

 なぜ攻撃で快感を覚えるのか? それは、“間違った行動をした人を正す”という正義感を持って制裁行動を行っているため、“自分は正しいことをしている”という“承認欲求”が充足するからだと考えられます

 ルールを守らないものを制裁行動によって正そうとすることで快感を得ているのです。(p.58)

 

 ドーパミンは一度出始めると、前頭葉をはじめ、脳のさまざまな神経を刺激し、快感を届けようとします。ですから、理性が働かなくなります。自分は正義を行っているという満足感から、攻撃することに中毒になってしまっている状態なので、止めることが難しいのです。ドーパミンが出ている状態では、言葉で諭したり、一瞬その場を離れたりしたくらいでは、攻撃を避けることはできません。ですから、ドーパミンが放出されている状態の怒りからはできるだけ“逃げるが勝ち”です。(pp.58-59)