なじみのある話からアプローチすることで人は情報を最も効率的に処理できる
P・W・シンガー『ロボット兵士の戦争』(小林由香里訳)NHK出版、2010年より。
※強調・下線は引用者
科学やビジネスはもちろん、気象の領域でさえ、未来に目を向けるのはごく当たり前のことだ。ところが戦争の研究においては、未来の予測と、それ以上に重要な、そうした未来がどんな変化をもたらすかを真剣に探ることを、たいてい避けて通る。みんな安全第一で、あまりになじみが薄いと感じるものはすべて、入ってくる前に叩きつぶそうとする。
私が身をもってそれを実感したのは、民間軍事会社の調査を始めてからだ。主任教授から、企業が傭兵を提供するなどという作り話で彼の時間を無駄にするつもりなら、大学院をやめて「ハリウッドの脚本家にでもなれ」と言われた。教授はこういう世界観を、イラクで民間軍事会社の人間が十八万人も活動している現状と、いったいどう折り合いをつけるのだろう。子ども兵の問題を調べはじめたころも、同じような経験をした。ハーバード大学の某教授から、子ども兵が存在するとは思えない、私の「でっちあげ」だと言われたのだ。しかし現在、子ども兵は世界各地に約三十万人いて、戦争全体の四分の三で戦っている。(p.24)
本書では大衆文化への言及も多い。戦争や政治や科学の調査研究にはめずらしいことだ。出典はすぐわかるものもあれば、そうでないものもある。また私の知るかぎりでは、シンクタンクから生まれた本で、推奨音楽リストがあるのは、本書が初めてだ。私のウェブサイト www.pwsinger.com で入手できるので、臨場感に浸りたい人はどうぞ。
こんなふうに従来と違うアプローチをしたのは、戦争のような重要な問題についても学術的なスタイルの型を破ろうとか、私たちの世代の考えかたや書きかたで保守派を心臓が止まりそうなほど驚かしてやろうといった魂胆からではなかった。むしろ、私たちインテリ学者は認めたがらないが、このほうが人は情報を最も効率的に処理するからだ。人類は昔から、新しいことを理解し消化するいちばんの方法として、個人の体験談で味付けし(「あるとき、こんなことがあった。部隊の野営地で、われわれは……」)、すでに文化的になじみのあるもの、とくに偶像や象徴や比喩に言及してきた(「ちょうど……のときみたいに」)。そして、好むと好まざるとにかかわらず、二十一世紀の民話とは、私たちが子どものころから接してきた、人気映画やテレビ番組や音楽や小型電子機器にまつわる民話なのだ。(p.32)