近隣窮乏化政策に走る各国/コロナ後の地政学的再編

フォーリン・アフェアーズ・リポート 2020年4月号

ヘンリー・ファレル、アブラハム・ニューマン「ウイルスが暴いたシステムの脆弱性――われわれが知るグローバル化の終わり」『フォーリン・アフェアーズ・リポート』(日本語版)2020年 No.4より。

 

新型ウイルスが拡散するにつれて、最悪の誘惑に屈する政府も出てきた。COVID19のアウトブレイクが始まる前の段階で、世界の医療用マスクの半分を生産していたのは中国だった。こうしたマスクメーカーは危機を前に生産体制を強化したが、中国政府は国内で供給されるマスクをすべて買い上げる一方、大量のマスクと人工呼吸器を輸入した。中国がそれらを必要としていたのは事実だろう。しかし、マスクを買い占めたせいで、供給が滞り、他国が感染症に対処していくのはさらに難しくなった。(p.29)

 

ヨーロッパ諸国も中国と大差なかった。ロシアとトルコは医療用マスクと人工呼吸器の輸出を禁止した。欧州連合EU)のメンバーとして、単一市場の他のメンバー国との自由貿易にコミットしているはずのドイツも同じことをした。フランス政府は入手可能なあらゆるマスクを押さえるという、よりシンプルな方法を選んだ。ブリュッセルは、そうした行動はEUの連帯を損ない、コロナウイルスに対する共通のアプローチを難しくすると批判したが、この声明は完全に無視された。

このような近隣窮乏化路線のダイナミクスが、危機が深刻化するにつれて、さらに大きくなれば、各国が切実に必要とするメディカルサプライのグローバルサプライチェーンは窒息する。(p.29)

 

トランプ政権がパンデミックをグローバルな統合から遠ざかる機会として利用しているのに対して、中国はこれを世界でのリーダーシップをとる機会として利用している。(p.30)

 

イタリアは他のEUメンバーに医療機器の緊急支援を求めたが、それに応える国はなかった。しかし、中国は違っていた。人工呼吸器、マスク、保護服、綿棒の売却に応じた。中国研究者のラッシュ・ドーシとジュリアン・ゲワーツが指摘したように、中国は誠実さを示して、影響力を高めるために、新型ウイルスに対するグローバルな闘いのリーダーとみなされることを望んでいる。(pp.30-31)

 

新型ウイルスへの対応が遅れ、しかも国内での感染が急速に広がっていたにもかかわらず、ヨーロッパからの旅行者の入国を禁止するのが最善の策だと状況を誤認したトランプ政権にとって、これは無様な事態だった。公共財のグローバルなプロバイダーとして動くどころか、アメリカは他国に提供できる資源をほとんどもっていなかった。(p.31)

 

グローバル化は、専門化された国際分業体制を必要とした。だがこのモデルは非常に高い効率だけでなく、異常なまでに大きな脆弱性を作りだしていた。COVID19パンデミックショックがこの脆弱性を暴き出した。特定のプロバイダー、あるいは世界の特定地域が製品を専門的に生産するシステムが危機に直面すると、サプライチェーンがブレイクダウンして予期せぬ脆弱性が露わになる。今後、数カ月、こうした脆弱性が次々と明らかになっていくだろう。(p.31)

 

これまでのところ、アメリカは、コロナウイルスのグローバルな対応におけるリーダーとはみなされていないし、そうした役目の一部を中国に譲っている。パンデミックグローバル化地政学を再編しつつある。(p.31)